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映画の感想文。

『The Orchard End Murder』(1981)

『The Orchard End Murder』(1981)



 1971年公開のイギリス映画『小さな恋のメロディ』に主演し、当時の映画少年たちの胸をときめかせたトレイシー・ハイド。特にアイドル的な人気を集めた日本では独自に主演映画の企画も立てられたが、資金集めがうまくいかず頓挫。その後はしばらく芸能界を離れ、一時的に女優復帰して数本の作品に出演するも、まもなく引退。そんなトレイシー嬢が成人後に出演した作品のひとつが本作である(日本未公開)。



 原題を直訳すれば「果樹園のはずれの殺人」。監督・脚本のクリスチャン・マーナムが、地元の英国ケント州を舞台に、実際に起きた殺人事件をもとに作り上げた48分の中編作品だ。劇中にはトレイシー嬢の絞殺死体ヌードもあり、純情なファンには衝撃的な内容かもしれない(ほとんど中年以上の世代だと思うけど)。

 こういった商業用の中短編作品は、ある時期までのイギリス映画業界ではおなじみの存在だったそうだ。かつての日本と同じく、イギリスの映画館でも2本立て興行が一般的で、長編2本の場合もあるし、長編1本+中短編1本というケースもあったという(いまだにこの形式を守っているのは、本編前に必ず短編をつけるディズニー長編ぐらいではないか?)。アメリカにおける本来の意味での「B Movie」=添え物映画にあたるものであり、日本映画黄金期にもSP(シスター・ピクチャー)と呼ばれる中短編が作られていたが、イギリスでは意外にも80年代初期あたりまでこの興行形態が生き延びていた。

 たとえば、ロジャー・クリスチャンの監督デビュー短編『Black Angel』(80年・未)は、イギリスやオーストラリアなどの一部地域では『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(80年)の本編前の添え物として上映された。また、『モンティ・パイソン/人生狂騒曲』(83年)ではテリー・ギリアムの監督パート「クリムゾン終身雇用会社」が長すぎて本編に入らず、冒頭に添え物としてくっついている。これも往年のイギリス映画界の興行形態を再現したものだ。



 本作『The Orchard End Murder』はそんな2本立て興行の末期に作られた作品で、配給はジャンル映画を数多く扱っていたというGTO Films。イギリスでは『ゾンゲリア』(81年)と2本立て上映され、ホラーファンを中心にトラウマを植え付けたのだとか。これらの添え物映画はソフト化される機会もなく、観客に「あれはなんだったんだろう……?」という微妙な記憶を残して消えていった。本作は運良くBFI(英国映画協会)のレアもの発掘レーベル「FLIP SIDE」に引っ掛かり、2017年にBlu-rayがリリースされた非常に稀有な例である。



 舞台は1966年、英国ケント州のチャートハースト・グリーンという田舎町。出会ったばかりのボーイフレンドが出場するクリケットの試合を観に来たポーリーン(トレイシー・ハイド)は、見物に飽きて散歩に出かける。まず観る者の目を奪うのが、トレイシー・ハイドの着ている奇妙なワンピースである。白と黒のツートンカラーで、その柄がひび割れ状というか、鳥の羽の模様っぽくもあり、ガラスに打ち込まれた亀裂のようでもあり、つまり非常に不穏な絵柄なのだ。これから彼女自身が「破壊」されることを予見するかのようなドレスをまとい、緑豊かな果樹園や田舎道をさまよう姿は、クロード・シャブロル作品にも似たムードを漂わせる(恋人といちゃつくシーンで覗く、白のストッキングとガーターベルトがまたエロい)。

 町外れの駅舎までやってきたポーリーンは、住み込みの駅員(ビル・ウォーリス)に声をかけられ、お茶をご馳走になる。「田舎の人間はよそ者を嫌うのさ」「背中にある瘤を触ってみるかい?」などと怪しく馴れ馴れしい駅員の話を適当に受け流していると、大男ユアン(クライヴ・マントル)が現れる。彼は駅員の同居人で、庭仕事や果樹園の世話などで生計を立てていた。その手には1羽のウサギが。あら可愛い!とポーリーンが手を伸ばすと、何が気に障ったのか、ユアンはウサギを乱暴にテーブルに叩きつけ、猛然と外に飛び出すと、庭先で解体処理を始めるのだった。バリバリと毛皮を剥かれていくウサギ。


▲“運命的”な三角関係が発生する午後の紅茶シーン。このくだりで大体の人間関係と、その後の伏線が描かれる。

 気分を害したポーリーンは、大急ぎで元来た道を戻る。すると果樹園でユアンが目の前に立ちはだかる。リンゴの入ったバスケットを差し出し、素直に謝罪するユアンに対し、警戒心を解くポーリーン。「好きなやつを選んでいいよ」と言われ、枝から果実をもぐ彼女の無防備な体に、ユアンの無骨な手が伸びる。やがて唇が重なり、このまま最後まで雪崩れ込むか……と思いきや、ふと我に返ったポーリーンは「ボーイフレンドが待ってるから」と身を引き離す。このへんの「誤解を招く」プロセスのいやらしい細かさが、英国スリージーホラーの真骨頂であろう。

 「近道を教えるよ!」というユアンに半ば強引に手を引かれ、たどり着いた先は窪地にあるゴミ捨て場だった。がらくたが積まれ、間引きされたリンゴが山のように捨てられている。「ここ、なんなの?」「地元じゃ“ラビット・ホール”って呼んでるよ」……そして、ユアンはぼろぼろに腐ったマットレスをゴミの山から引っ張り出す。「ちょ……冗談よね?」



 逃げ出したポーリーンは朽ちかけたリンゴの山に押し倒される。悲鳴を上げ続ける彼女の口に、ストッキングを引きちぎって押し込もうとするユアンだったが、いつしかそれは彼女の白く細い首に巻きつけられていた。ばたつく手足はやがて力を失い、瞳は虚空を見据えて動かなくなる。ユアンはその体から、ワンピースをひと息に剥ぎ取る。先ほど憐れなウサギにそうしたように。露わになった美しい裸身に覆い被さろうとしたとき、人の気配を感じたユアンは、咄嗟に死体をリンゴの山の下に隠した……。



 リンゴの上に横たわる半裸美女の死体。『ツイン・ピークス』(90年)のローラ・パーマー、あるいは『悪魔の手毬唄』(77年)にも肩を並べそうな淫靡で忌まわしい死美人アートに、こんなところでお目にかかろうとは! ただし監督のマーナムも、ピート・ウォーカー組の撮影監督ピーター・ジェソップも、さほどアート寄りの演出には振り切らず、チープでスリージーな田舎ホラーの味わいを優先している。それでもイメージの喚起力は抜群だ。

 後半からは一転、殺人者側に寄り添った奇妙なサスペンスが展開。ユアンに対して明らかにホモセクシュアルかつ上から目線の劣情を抱く駅員と、狼狽しまくるユアン・ザ・バーバリアンの二人三脚による死体隠蔽工作がブラックユーモアを交えて描かれる。ユアンが線路沿いの掘っ立て小屋にポーリーンの全裸死体を隠しているのを、駅員が発見したときに叫ぶ「この浮気者!」というセリフが最高だ。しかも死体に手向けた花を見て「その花は私の庭から盗んだんだろう! 私の大事な花を、よくもこんなことに使いやがって!」と畳みかける。こんなセリフ、なかなか書けるものではない。そんな男たちを、死体となりながら呆れるような眼差しで見据えるトレイシー嬢の演技も素晴らしい。



 「警察が捜査済みの場所に埋めれば、二度と同じところは探さないだろう」という雑なひらめきのもと、なんともずさんな手つきで果樹園のど真ん中に死体を埋めるくだりも、ほとんどドタバタ喜劇の趣き。監督のマーナムは、スタインベックの『二十日鼠と人間』もイメージして彼らの関係を描いたというが(それはそれで不謹慎な発想じゃないのか)、英国ならではの暗く湿ったムードも相まって一連の「バーク&ヘアもの」なども思い出す。

 案の定、地元警察によってポーリーンの遺体があっさり発見されるシーンでは、なんと土のなかからトレイシー嬢の可憐な尻肉が、土ぼこりを払われながらふるふると出現するのである(本人が土中にもぐっての熱演らしい)。その傍らにはご丁寧にリンゴも添えて。イギリス人のギャグセンスってホントにやぁね、と思わず笑ってしまう珍場面だ。


▲ユアン役のクライヴ・マントル(右)は、近年では『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン1、『シャーロック』シーズン2などに出演

 直接の下手人であるユアンは逮捕されたが、駅員のほうはいまでも……という、英国厭ホラーの伝統をしっかり踏まえたオチも素敵。この手の小規模作品なら、テレビ放映の可能性も考えて描写もマイルドにしそうなものだが、ヌードもあれば殺人・屍姦(未遂)・死体遺棄まで盛り込んだ手加減なしの作りが潔い(いちばんのネックは、リアルバイオレンスに晒されるウサギちゃんかもしれない)。珠玉の掌編とかいう大袈裟なものではないが、一度でも観た者の心にはなんらかの引っかき傷を残すこと請け合いの一作だ。まだまだ世界には未知の映画がたくさんあるんだなあ、と改めて思った。


▲2017年発売のブルーレイに収録されたトレイシーさんのインタビュー映像より。お元気そうで何より。

 監督のクリスチャン・マーナムは、60年代末にヒュー・ハドソンが立ち上げたCM会社で編集技師として働いたのち、70年代からは監督として独立。多数のCM演出を手がけつつ、短編ドキュメンタリーも数本監督し、そのうちの1本『The Showman』(70年)は本作のブルーレイに映像特典として収録されている。『The Orchard End Murder』は、マーナムが生まれ育ったケント州の思い出と、同地で実際に起きた殺人事件を合体させたもの。彼の地元には駅の近くに果樹園とクリケット場があり、その地理を念頭に入れてシナリオを執筆したという。本作のあと、マーナムはシャノン・トゥイード主演の『リベンジ・アイランド 欲情の甘い罠』(88年)というエロティック・アクションものを撮ったきり、劇場作品は手がけていない。が、吸血鬼を題材にしたオリジナル脚本を映画化する夢は、まだ諦めていないそうだ。

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『愛と歌の日々』(1963)

『愛と歌の日々』(1963)
原題:I Could Go On Singing



 MGMミュージカルの看板女優であり、歌手としても人気を博した稀代の大スター、ジュディ・ガーランド(1922~1969)。その晩年、1968年のロンドン公演でのエピソードを中心に、彼女の苛烈な生き様を追った伝記映画『ジュディ 虹の彼方に』(2019年)が3月6日に公開される【公式サイト】。原作は2005年にオーストラリアで初演されたというピーター・キルター作の舞台『End of the Rainbow』で、映画化に際してはトム・エッジによる脚色が施された。ジュディを演じたレネー・ゼルウィガーの体を張った熱演がすさまじく、多くのものを犠牲にしながらスターの道を歩み続けてきた大スターのプライドと苦渋を、全身の骨肉にまで染み込ませたような痛々しい演技は、まさに圧巻である(本人はまったくそういうタイプの女優ではないのに!)。


▲『ジュディ 虹の彼方に』のレネエ・ゼルウィガー。さすがは『ベティ・サイズモア』の主演女優

 この映画を観たあと、米盤DVDを買ったまま放置してあったジュディ・ガーランドの遺作『I Could Go On Singing』を観てみた(日本では劇場未公開、テレビでは『愛と歌の日々』のタイトルで放映)。ミュージカル作品ではないが、映画では『スタア誕生』(54年)以来となるジュディの歌唱シーンを見どころに据えた音楽ドラマの佳作で、これが『ジュディ 虹の彼方に』といろいろな部分で共通性を感じさせる作品だった。

 監督はのちに『ポセイドン・アドベンチャー』(73年)を手がけるロナルド・ニーム。主にテレビ畑で活躍し、映画では『枢機卿』(62年)などを手がけた脚本家ロバート・ドジアーによる原案をもとに、『宇宙からの脱出』(69年)『フェイズIV/戦慄!昆虫パニック』(73年)などのSF作品の印象が強いメイヨ・サイモンが脚本を執筆した。劇中のセリフの一部を、共演者のダーク・ボガードが書き直したという話もある。物語の主な舞台がロンドンで、監督も脇を固めるキャストもイギリス人という、実質イギリス映画として作られているところも『ジュディ 虹の彼方に』と共通している。また、『巴里のアメリカ人』(51年)『キス・ミー・ケイト』(53年)『ウエストサイド物語』(61年)などの作曲を手がけたソウル・チャップリンが音楽監修に名を連ねているのも、往年のミュージカル・ファンなら見逃せないところだろう。



 ジュディが演じるのは、彼女本人を模したようなアメリカの人気歌手ジェニー・ボウマン。この時代になると、やや生活の荒れが容姿に表れ始めている感じだが、それでもスターとしての華と貫禄は隠しようもなく、おそらく歌唱法の影響でやや猫背気味になったシルエットは、どこかエディット・ピアフも思わせる。

 ジェニーは公演先のロンドンに着いてすぐ、医師デヴィッド(ダーク・ボガード)と面会する。実は2人は元恋人同士で、お互いのキャリアのために結婚目前で破局した過去があった。そのとき、ジェニーは子供を身ごもっていたが、彼女は芸能人としての生活を選び、生まれた子供はデヴィッドが引き取ることになった。デヴィッドは幼馴染みの女性と結婚し、実の息子を養子という名目で15年間育て上げ、ようやく手が離れたところで妻と死別したところだった。その報せを受け、ジェニーは十数年ぶりにデヴィッドのもとを訪れたのだ……。これだけの設定を、デヴィッドの自宅兼診療所での会話だけで徐々にわからせていくシナリオと演出がうまい。というか、こういう「徐々にわからせていく」語りというのは近年の映画作りでは敬遠される手法だろう。

 ジェニーは生き別れた息子に一目会いたいと、デヴィッドに頼みに来たのだった。最初は渋るデヴィッドだったが、「本当に一目だけなら」という条件で彼女の願いを受け入れる。翌日、ジェニーはデヴィッドとともにバッキンガムシャーの寄宿学校に赴き、そこで実の息子マット(グレゴリー・フィリップス)と初めて対面する。マットは世界的大スターのジェニーが自分の母親だとは露知らず、大好きな歌を披露。溢れ出す愛情を抑えきれないジェニーは、ロンドン公演を観に来てほしいとマットに告げる。快諾するマットと、渋い顔のデヴィッド。



 ロンドン公演での熱唱シーンは、まさにジュディの独り舞台をそのまま見ているような迫力がある。おそらく『ジュディ 虹の彼方に』のレネー・ゼルウィガーも大いに参考にしたはずだ。往年のMGMミュージカルのような派手な演出はないが、1人の小柄な女性が、その歌声と存在感だけで観客全員のハートを「持っていく」エンタテイナーとしての圧倒的力量は見事にフィルムに焼き付けられている。一方、スケジュールを守らなかったり、突然「今日は舞台に出ない!」と言い出して劇場スタッフをハラハラさせる一幕も描かれる。このあたりはジュディ本人のパーソナリティを反映していると思われるが、本人主演の映画でよく正直に描いているなと感心する(さすがにドラッグやアルコール癖については描いていないが……)。

 ジェニーはマットが単身ロンドンに来てくれたことに大喜びで、彼と一緒に遊覧船に乗ったり、ヘリコプターに乗ったりと、ロンドン観光を満喫する。もちろん素性は隠したまま……。この親と子のドラマを主軸にしたストーリーも『ジュディ 虹の彼方に』の重要なエッセンスとなっており、ここまでくると「原作」と言ってもいいような気もしてくる。『ジュディ 虹の彼方に』では、ジュディが良き母親であろうとしながらも、借金まみれの巡業生活のなかで子供たちに安定した生活を与えてあげられない現実、そして子供たちをL.A.に置き去りにしたまま長期の海外公演で生活費を稼がねばならない苦悩と孤独が映し出される。それを踏まえて本作の「疑似親子団欒」の光景を見ると、なかなか切ないものがある。はたしてジュディ本人はどんな気持ちでこの母と子の交流を演じていたのだろうか?

 当然、ジェニーの嘘は長続きするものではなく、息子を迎えに来たデヴィッドとの口論のさなか、自分が実の母親であることをマットに聞かれてしまう。真実を告げたことで、自らのもとを去っていく家族……。このシーンのあと、ステージでジェニー=ジュディが「By Myself」を熱唱するシーンは、本作最大のクライマックスと言っていい。「これでロマンスは終わり/私は私の道を行く」という歌詞の内容も、大切な人間関係を失っても1人でたくましく生き抜こうというジュディ・ガーランド自身の「芸道一筋」の決意表明を迫力たっぷりに聞かされているようで、圧巻としか言いようがない。ちなみにこの曲は、『ジュディ』でレネー・ゼルウィガー扮するジュディが劇中で初めて披露する曲にもなっていて、ジュディ本人に負けじとド迫力の歌声で観る者を圧倒してくれる。



 このあと、マットの親権をめぐってジェニーが泥沼の闘争に突き進みかけるくだりも『ジュディ 虹の彼方に』の脚本に大きな影響を与えたのでは……というか、ジュディ・ガーランド自身の実人生を予見していたのではないか、という気もする。板挟みになったマットは、母のため、父のためを思い、ある決断を下す。そして終盤、公演に穴を開けかねないほど錯乱状態に陥ったジェニーを、デヴィッドは病院の診察室で懇々と説得する。この2人芝居のシーンもまた、本作のクライマックスのひとつである。激しさと穏やかさが火花を散らす名優同士のサイコセラピー的演技合戦からは、ひと時も目が離せない。引き裂かれた人間の心を全身で表現できる、ジュディ・ガーランドの女優としての実力を思い知らされる名場面だ。



 エンディングを締めくくるのは、本作の主題歌「I Could Go On Singing」。開演時間から大幅に遅れて登場したジェニーが、「どこ行ってたんだ?」「そのカカトの怪我はどうしたんだ?」というロンドンっ子たちの温かいヤジに答えながら歌い出すくだりは、そのまま『ジュディ 虹の彼方に』の一場面でも再現される(ただし、もっと悲惨な展開だが……)。あくまでもハートウォーミングな再生のドラマとして幕を下ろす本作では、ジェニーがようやく心の平静を取り戻したかのような、優しく前向きな歌声が観る者の胸を打つ。



「君が自分の力で、その2本の足でしっかり立てるまで、僕がそばにいるよ」と告げたデヴィッドは、ステージ袖から彼女の姿を見守り、いつの間にか姿を消している。その不在に気付き、一瞬揺らぎながらも、再びエネルギッシュに「私は歌い続ける」と熱唱するジュディの演技が絶品だ。本作公開から6年後、ジュディは滞在先のロンドンで、47歳という若さで死去。これが最後の主演映画となった(ジョン・カサヴェテスが監督した『愛の奇跡』と同年公開だが、こちらのほうが数カ月遅く封切られている)。掛け値なしの傑作とか、不朽の名作とかいうものではないが、『ジュディ 虹の彼方に』が公開されるいま、見逃してはならない作品ではあると思う。どこかで日本語字幕つきでテレビ放映してくれないだろうか?

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2019年に面白かったもの

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 2019年は劇場長編アニメーションだけでベストテンが作れてしまうのでは?と思ったので、実写作品は抜きにして年間ベストを選ぶとするなら、以下のとおり。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
『海獣の子供』
『スパイダーマン:スパイダーバース』
『羅小黒戦記』
『チェリー・レイン7番地』(東京国際映画祭にて上映)
『音楽』(2020年1月11日公開)
『都市投影劇画 ホライズンブルー』
『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
『きみと、波にのれたら』
『アヴリルと奇妙な世界』

 なんと、これだけ挙げても『トイ・ストーリー4』『ディリリとパリの時間旅行』『プロメア』『天気の子』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』『幸福路のチー』『空の青さを知る人よ』といった見応えある傑作・快作が溢れてしまうのだから、いかに今年はアニメーション豊作の年だったかということ。とはいえ、数が多かったぶん残念な作品もけっこうありましたが……。



 実写作品でベストテンに入れたいくらい面白かったのは、以下のとおり。2020年1月発売の『映画秘宝』ベスト&トホホ号にて、悩みに悩んで決めた順位を発表しております。ちなみに大晦日に駆け込みで観た『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は入っておりません。

『アイリッシュマン』
『アベンジャーズ/エンドゲーム』
『アマン』(カナザワ映画祭2019「大怪談大会」にて上映)
『アメリカン・アニマルズ』
『We Have Always Lived In The Castle』(プチョン国際ファンタスティック映画祭にて上映)
『ウトヤ島、7月22日』
『ウルフズ・コール』(フランス映画祭にて上映)
『Extra Ordinary』(プチョン国際ファンタスティック映画祭にて上映)
『エクストリーム・ジョブ』(2020年1月3日公開)
『エンテベ空港の7日間』
『オーヴァーロード』
『家族を想うとき』
『ガルヴェストン』
『感染家族』
『記者たち 衝撃と畏怖の真実』
『GANG』(釜山国際映画祭にて上映)
『キング・コーエン』(カナザワ映画祭2019「大怪談大会」にて上映)
『グリーンブック』
『グレタ GRETA』
『コンフェッション・キラー:疑惑の自供』(ドキュメンタリーシリーズ/Netflix)
『殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合』(ドキュメンタリーシリーズ/Netflix)
『ザ・テキサス・レンジャーズ』
『サバハ』
『ザ・フォーリナー/復讐者』
『Savage』(釜山国際映画祭にて上映)
『さらば愛しきアウトロー』
『The Lodge』(プチョン国際ファンタスティック映画祭にて上映)
『The Art of Self-defense』(プチョン国際ファンタスティック映画祭にて上映)
『G殺』(大阪アジアン映画祭にて上映)
『ジャスト6.5』(東京国際映画祭にて上映)
『SHADOW/影武者』
『シュヴァルの理想宮/ある郵便配達員の夢』
『ジュマンジ:ネクスト・レベル』
『少女は夜明けに夢をみる』
『ジョジョ・ラビット』(2020年1月17日公開)
『ジョン・デロリアン』
『スピード・スクワッド/ひき逃げ専門捜査班』
『全裸監督』(ドラマシリーズ/Netflix)
『ダンボ』
『鉄道運転士の花束』
『Dragged Across Concrete』
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2020年1月31日公開)
『なまず』(大阪アジアン映画祭にて上映)
『ニーナ・ウー』(釜山国際映画祭/東京フィルメックスにて上映)
『ネバーランドにさよならを』(ドキュメンタリーシリーズ/Netflix)
『バイス』
『ハイ・フォン』
『ハッピー・デス・デイ』
『ハッピー・デス・デイ2U』
『パドマーワト 女神の誕生』
『パラサイト 半地下の家族』
『バンブルビー』
『羊とオオカミの恋と殺人』
『ヒンディー・ミディアム』
『ひとつの太陽』(2020年1月24日、Netflixにて配信予定)
『フォードvsフェラーリ』(2020年1月10日公開)
『ブラインドスポッティング』
『ブラック・クランズマン』
『フリーソロ』
『フリードキン・アンカット』
『ボーダー 二つの世界』
『ホームステイ ボクと僕の100日間』
『ホテル・ムンバイ』
『Volare』(釜山国際映画祭にて上映)
『マインドハンター《シーズン2》』(ドラマシリーズ/Netflix)
『マーウェン』
『マザーレス・ブルックリン』(2020年1月10日公開)
『マリッジ・ストーリー』
『ミスター・ガラス』
『MOPE』(プチョン国際ファンタスティック映画祭にて上映)
『ラスト・ムービースター』
『ラ・ヨローナ伝説』(東京国際映画祭にて上映)
『リトル・フォレスト 春夏秋冬』
『淪落の人』(2020年2月1日公開)
『ルチアの恩寵』(イタリア映画祭にて上映)
『ルディ・レイ・ムーア』
『LEGOムービー2』
『レ・ミゼラブル』(2020年2月28日公開)
『Roam Rome Mein』(釜山国際映画祭にて上映)
『ワイルドライフ』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』




 2019年の『映画秘宝』本誌では『ハイ・フォン』レ・ヴァン・キエ監督、『なまず』イ・オクソプ監督、『天国でまた会おう』アルベール・デュポンテル監督、『海獣の子供』渡辺歩監督、『きみと、波にのれたら』湯浅政明監督、『ホームステイ ボクと僕の100日間』パークプム・ウォンプム監督、『アナと世界の終わり』ジョン・マクフェイル監督、『惡の華』原作・押見修造さん、『エンテベ空港の7日間』ジョゼ・パジーリャ監督、『エクストリーム・ジョブ』イ・ビョンホン監督に取材。「吹替秘宝」では堀内賢雄さん、多田野曜平さん、宮内敦士さん&安原義人さんにインタビューする機会に恵まれました。さらに『CLIMAX クライマックス』ギャスパー・ノエ監督&塚本晋也監督、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督&町山智浩さんの対談まとめも担当。本誌以外にも『別冊映画秘宝 サスペリア マガジン』『別冊映画秘宝 決定版ゾンビ究極読本』に参加できて楽しかったです。



 また、本ブログで微力ながら応援させていただいた『死霊の罠』Blu-ray化クラウドファンディング企画が実現し、ブックレットの関係者インタビュー(『死霊の罠』特殊メイク・若狭新一さん、『死霊の罠2 ヒデキ』監督・橋本以蔵さん&脚本・小中千昭さん)を担当できたことも嬉しかったです。東宝ステラさんに声をかけてもらった『海獣の子供』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『空の青さを知る人よ』のパンフレットの仕事も、大変でしたが忘れがたい思い出になりました。インタビューを担当した「公式ビジュアルストーリーBook 海獣の子供」も読んでもらえると嬉しいです。

 突然の『映画秘宝』休刊の報に揺れているさなかではありますが、悲しんでばかりもいられないので、とにかくやることはやっていきます(ちなみに休刊になったこと自体は「時代の流れ」とは全然関係ありません)。いろいろありますが、2020年もよろしくお願いいたします!

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